糖尿病について
糖尿病とは
食事中の炭水化物は消化されブドウ糖となり腸から吸収されますが、通常はこのときにインスリンが出て、それにより血管内のブドウ糖は細胞内に運ばれます。健常者ではインスリンの働きにより糖の処理(=糖代謝:すなわち血管内のブドウ糖が細胞内に移行すること)が速やかに行われ、食事後に上昇する血管内のブドウ糖濃度(=血糖値)は150mg/dl以下に抑えられています。インスリンの量の不足や効果の減弱により糖の処理が不十分になる(=糖代謝異常)と血管内のブドウ糖濃度が上昇し高血糖になります。この高血糖状態が持続し空腹時で126mg/dl以上食後の血糖値が200mg/dl以上になると糖尿病ということになります。つまり糖尿病とはインスリン量や作用の低下のために糖代謝が破綻した状態です。
なぜ糖尿病になるか
血糖値をあげるホルモンは体内にいろいろありますが、下げるホルモンはインスリンだけになります。したがってインスリンを出す細胞が破壊されるとインスリン分泌量は低下し、結果糖尿病になります。1型糖尿病は免疫異常などによりインスリン分泌をする膵β細胞が破壊され、インスリン分泌の低下がおこることが原因の糖尿病です。したがって1型糖尿病は生活習慣の悪化で糖尿病になるわけではないので生活習慣病ではありません。
一般的に糖尿病は2型糖尿病のことを指します。2型糖尿病は肥満や運動不足などにより筋肉や脂肪細胞のインスリンに対する反応が低下し、その結果インスリン量が減っていないのに血糖値が低下しなくなること(=インスリン抵抗性)で高血糖になってくることが原因の糖尿病です。肥満や運動不足は生活習慣の悪化により生じることから生活習慣病の典型であるといえます。
遺伝と糖尿病
肥満と運動不足が2型糖尿病の原因ですが、明らかに運動不足で肥満なのに糖尿病でない方がたくさんいます。この理由は遺伝が関与しています。糖尿病は多因子遺伝といわれていて糖尿病になるかどうかの遺伝子は1つではないであろうとされています。どの遺伝子に問題があるかはわかっていないものの、遺伝のある方ではインスリンの出るスピードが遅いことがわかっています。これは一般的にインスリンの初期分泌の低下といわれ、ブドウ糖負荷試験を行うと共通して認められる所見です。この初期分泌の低下はもともとあるものなのでご飯を食べて血糖値があがり始めるとそれに応じてインスリンが出るわけですが、スピードが遅いために食後血糖が上がりやすい体質だということになります。若いうちは運動量も多くやせているので、インスリンの出るスピードが遅くてもインスリンの効きはいいので食後血糖は上昇しませんが、運動不足や肥満によりインスリンの効きが低下してくるとスピードの遅さのために食後血糖が上昇を始めます。スピードが遅くても量は出せるので食後血糖が上がっても量をだして血糖値は時間がたてば下がります。この食後上がるが時間がたてば下がるという状態が境界型ということになります。
境界型から糖尿病へ
境界型の人たちは糖尿病予備軍とされますが、運動不足や肥満がさらに進行すれば境界型の人が糖尿病になるのは容易に想像されるでしょう。しかし、実際は肥満や運動不足が進行しなくても糖尿病に進行してしまうことは少なくありません。その理由がブドウ糖毒性といわれるものです。食後血糖が200mg/dlを超えるようになるとブドウ糖毒性という悪循環が始まります。ブドウ糖毒性とは高血糖によりインスリン分泌が低下するのみならず、インスリン作用も低下してしまうことですが、結果として血糖値は上がり始めると高血糖が高血糖を呼ぶことになる悪循環を形成するということです。最初は食後上がっても時間がたてば下がっていたものが、このブドウ糖毒性のために下がらなくなってきます。食後のみ高血糖であったのが食前も高血糖になりそれが翌朝の高血糖にとつながります。こうなると境界型ではなく糖尿病ということになるわけです。
ブドウ糖毒性
糖尿病状態になるとブドウ糖毒性という悪循環が形成されていますから、自然によくなることは通常ありません。高血糖が存在している限りはブドウ糖毒性が存在していることになり悪化する方向にしか進みません。このことが糖尿病治療を難しくしている大きな要因です。血圧やコレステロール、中性脂肪では高いからといってそれがさらに高くなるような原因になるようなことはないのと対照的です。
糖尿病は治るのか?
インスリンが減ってしまうために血糖値が上昇してしまう1型糖尿病は治りませんが、インスリンの効きが悪くなるためになる2型糖尿病は、肥満や運動不足を解消しインスリンの効きを高め、また少ないインスリン量でも処理できる程度に炭水化物量を抑え、インスリンの出るスピードの遅さにあわせるために食物繊維を十分摂取することができれば、一度血糖値が上昇し糖尿病になっても正常のレベルまで戻すことが可能です。糖尿病になった人が正常レベルに戻るということに関して専門医でもそう考えていない人がおおく、糖尿病が治るなどというと専門医のくせにおかしなことを言っているといわれてしまうのが現状ですから、糖尿病になった人はどのくらいの割合で治る(食事と運動で正常の血糖レベルになる)のかというようなデータはありません。しかし私の経験では治る確立は70%程度と思われます。どういう人が治りやすいかというと、肥満や運動不足が顕著なひと、食生活に明らかな異常のあるひとということになります。反対に治りにくい人は肥満がない方、食生活習慣に大きな問題がない方になります。また血糖値の高さ、Hba1cが良いか悪いかは治るか治らないかには余り関係ありませんが、血糖値が高い期間が長い場合(糖尿病罹病期間が長い場合)は治る可能性は低くなります。したがって早期発見できれば直る可能性が高くなるので、高いことがわかった時点で治療開始をお勧めします。